奥が深い溶連菌の診察

熱でぐったりした犬 小児科一般

溶連菌と診断された方の中で「ノドの痛みはなく、咳がひどかった。」という方がいたら実は溶連菌による発熱ではないかもしれません。検査して陽性なのに溶連菌じゃないってどういうことでしょうか?

分からないよという子どもたちのイラスト

今回は身近な感染症だけど、意外と診断が難しい溶連菌感染症について考えました。

溶連菌感染症とは?

そもそも溶連菌感染症とは溶血連鎖球菌というバイ菌が引き起こす感染症の総称です。鎖球を省略して「溶連菌」と呼ばれます。

細かい話になりますが…
溶連菌にはいくつかの種類がいて、感染力が強く私達の日常生活で特に問題になりやすいのはA群溶血性連鎖球菌というタイプです。Group A Streptococcusの頭文字をとってGASと略されることもあります。他にも新生児の場合に問題になりやすいB群溶連菌というタイプやC群、G群などもあります。またA群の中にも劇症型などもあり、話がまとまらなくなってしまいます。。悩むカエル

ということで今回は溶連菌=主にA群溶連菌による咽頭炎/扁桃炎としてお話します。

近年、劇症型溶連菌感染症がニュースとなることもありますがこれは極めて稀な疾患であることや咽頭炎などが先行するというよりもむしろ皮膚からの感染などが問題となりやすいと考えられています。症状も一般的な溶連菌と異なり、四肢の疼痛・腫脹、 発熱、血圧低下などが発急激に進行して数十時間以内ショック状態から死に至ることもある。(引用:国立感染症研究所 一部改変)という危険なものです。
溶連菌は子どもによく見られますが、大人にも感染することもあります。多くは自然治癒するので大きな心配はありませんが、早期に診断されて適切な治療が提供されると罹病期間が短縮されて早く楽になるし周りにうつす力も減るので疑わしい時は早めに受診しましょう。

溶連菌感染症の症状

溶連菌感染症の主な症状は

  • ノドの痛み
  • 高熱
  • 扁桃の腫れや膿がつく
  • いちご舌
  • 発疹猩紅熱
  • その他の症状
    頭痛、腹痛、吐き気、嘔吐など

溶連菌は細菌自体が悪さをする症状以外にも溶連菌の毒素によるもの、免疫反応によるものなど多彩な症状を起こしますが、カゼと違って咳や鼻水のような症状は通常は認められません!!
ごく稀に肺炎を起こすこともありますが本当に滅多にありません。

これはとても大切なところです。自分が感染症を教える先生ならテストに出します。

咳が主な症状の場合は溶連菌は否定的指差すクマ

 

Centorスコア
溶連菌感染症の診断には、CENTORスコアという有名な指標があります。以下の4つの項目に基づいて点数をつけて、溶連菌感染の可能性を評価します。

  1. 発熱(38℃以上)
  2. 前頸部(首の前側)リンパ節の腫れや痛み
  3. 扁桃の腫れや白斑
  4. 咳がない
  5. 15歳未満
  6. 15歳以上

これらの項目のうち、1〜5に該当するものがあれば+1点、6に該当する場合はー1点として合計点で評価します。

  • 0~1点: 溶連菌感染の可能性は低いと考えられ、検査は不要な場合が多いです。
  • 2点: 溶連菌感染の可能性が中程度とされ、迅速抗原検査や培養検査を検討します。
  • 3点以上: 溶連菌感染の可能性が高いとされ、検査が推奨されます。

これだけで確定できるものでは決してありません。大事なことはこういった項目も意識しながら、目の前の患者さんの症状と所見を観察して必要な検査や治療を選択することです。

たとえば、Centorスコアは低く診察や病歴からも溶連菌らしくないのに「念のため溶連菌の検査をしておこう」といった方針をとると、残念ながら後述する偽陽性/保菌者を見つけてしまっているということもあるかもしれません・・・これは結果として、無駄な抗菌薬投与につながったり、裏に隠れている大きな病気を見逃してしまう可能性があります。

溶連菌に限りませんが、病歴と身体所見からその病気の疑いがあるからこそ検査をする必要があります。
バツ印をもった医者

無駄な検査はしない!

なぜ15歳未満と15歳以上で点数の付け方が変わるか?
溶連菌は様々な合併症を起こすことが問題となりますが、合併症の頻度が15歳未満に多く注意が必要です。ただし、子どもの中でも3歳未満では合併症は少ないので、そもそも溶連菌を疑って検査すること自体が不要という考え方もあります。(家族内に溶連菌にかかった人がいる場合は検査を考慮すべきともされています)
当院では兄弟の感染や保育園などでの流行状況と、実際の症状から溶連菌感染症を強く疑うときには一日でも早く解熱して元気になることと感染拡大防止のため、積極的に検査を提案しています。逆に全く疑わない時はできるだけ検査は避けています。

検査

診断を確定するための検査にはいくつかの種類があります。検査方法はいずれも

迅速抗原検査:10分程度ですぐに結果が分かりますが、精度は他の検査に比べてやや劣ることが欠点です。
咽頭培養:迅速抗原検査が陰性の場合や確定診断が必要な場合に行います。結果が出るまでに数日かかりますが、最も精度が高い検査法です。
核酸検出法:溶連菌の遺伝子を増幅させて検出します。精度が高く、結果も10分程度で分かるため、より確実な溶連菌診断に繋がります。ただし保険診療では年齢制限(15歳未満)があります。

▶Centorスコアのところで述べた15歳というところと合致します。やはり不要な検査は極力避けるということでしょう。

喉の検査で泣く女の子

上の3つはいずれも綿棒でノドの奥をこすって採取した咽頭ぬぐい液というものを検体として使用します。検査の痛みは強くはありませんが、オェッとなってしまいますし子どもたちには恐怖が大きいため、検査負担の観点からも無駄な検査は避けましょう。

抗体検査:溶連菌にかかると1週間程度経ってから血液の中に溶連菌と戦った証である抗体が産生されます。これをチェックすることで溶連菌にかかっていたかどうかを確認することができます。熱やノドの痛みで困っている時に行うものではなく、合併症などが疑われたときに行う検査といえます。

溶連菌感染症の治療

溶連菌感染症としっかりと診断されたら抗菌薬で治療します。抗菌薬を正しく服用することでまず第一に症状が早く改善します。そして特に大切なことが合併症を防ぐことです。そのためにも溶連菌感染の時には定められた期間は必ず薬を飲みきるようにしましょう。

ペニシリンにアレルギーがある場合は他の抗菌薬が処方されますが原則としてペニシリン系抗菌薬(ワイドシリンやアモキシシリンなど)を使用します。

なぜペニシリン系の薬を使うのか?
よく効く
薬剤耐性の問題を起こしにくい
③薬価が安い

治療期間は1日2〜3回(1回にたくさん飲める自信があれば1日1回でも大丈夫ですが)で10日間となります。必ず飲み切るようにしましょう。

また、通常の風邪と同様に水分摂取や安静・睡眠もとても大切です。

溶連菌は適切な抗菌薬内服開始から24時間が経過しており元気で熱もなければ登園登校が可能です。ただし、登園登校しても薬は休まないようにしてください。

登校する子どもたち

保菌について

溶連菌には「保菌者」と呼ばれる、症状がない(=溶連菌感染症ではない)にも関わらず、ノドに溶連菌を保有つまりペットのように飼っているような状態の人がいます。

保菌状態の溶連菌は自分にも周りにも悪さをしないと考えられているため通常は治療を必要としません。この保菌者の存在こそが溶連菌診断を難しくさせる元凶です。

①ノドに溶連菌がくっつく
②溶連菌が増殖して熱やノドの痛み
▼ ▼ ▼
①でストップした状態が【保菌
②までいくと【溶連菌感染症

ということです。溶連菌の保菌の図

Q.溶連菌の保菌者はどれくらい?
A.こども:20% おとな:2%

【溶連菌検査が陽性】=【溶連菌感染症】とすると、元気な子どもたちも検査をすれば10人中2人くらいは溶連菌感染症と診断されて無駄な治療をされてしまうということです。

あえて極端な表現をすると

【溶連菌感染症】
【溶連菌検査が陽性】
これは全く別物!!

検査をしてもらって溶連菌が陽性でも熱の原因が溶連菌ではないことはたくさんあるということです。

溶連菌感染症後の尿検査

溶連菌感染症後には様々な合併症があります。過去にはリウマチ熱が大きな問題でしたが私が小児科医になったころにはすでにほとんど出会うことのない疾患になりました。環境が衛生的になったことやリウマチ熱を起こしやすい溶連菌株が減ったことが原因のようです。

いまだに問題となるのは腎炎(正式には溶連菌感染後急性糸球体腎炎)です。溶連菌感染後2週間程度で発症すると言われています。

そのため、溶連菌にかかった後は尿検査を行って腎炎になっていないか確認する必要があると考えられていました。しかし、最近では尿検査は行われないことも増えています。当院でも実施していません。尿検査

 

尿検査が不要な理由ですが、大前提として溶連菌感染症後に尿検査をすることで腎炎を予防するというエビデンスがないことです。

個人的な考えになりますが、

①治療が必要な腎炎は症状が出る
②タイミングによっては無意味
③無駄な医療費を減らす

一つずつ説明します。
①溶連菌感染後の腎炎は軽症〜重症まで様々ですが、治療が必要となる腎炎ならばオシッコの色が変わったり手足や顔に浮腫みが出ます。これらの症状が出たら検査しなければいけまんせが、症状の出ないような軽症の腎炎は自然に治癒します。

②溶連菌感染後の腎炎が2週間程度で必ず発症するわけではありません。3〜4週間以上経ってから発症することもあります。また、溶連菌にかかったことに気付かずに腎炎を発症してから溶連菌の存在が判明することもあります。さらに、1回の尿検査が正常だからといって腎炎を否定する根拠は乏しいです。ということで、ピンポイントで検尿の日を決めることは私にはできません。。

③小児医療証があると実感が少ないですが窓口支払が無くても、医療機関を受診すれば医療費が発生します。検尿をすれば検査代もかかります。医療費削減は未来の子どもたちの生活を守る大切な課題です。必ずしも必要といえない検査のために仕事を休んだり時間を作るという保護者の負担も無視できません。

※溶連菌後の尿検査を否定するわけではありません。実施するメリットもあると思いますので、かかりつけの先生や受診された施設の方針に従ってください。

予防

溶連菌にはワクチンがありません。一般的な風邪の対策と同じです。

  • 手洗いの徹底:どんな感染症も手を介して拡がることが多いため、溶連菌も手洗いがとても大切です。また溶連菌にはアルコール消毒も有効です。
  • うがい:実は明確に感染症が予防できるというデータは乏しいですが、口の中を清潔に保つことは感染予防以外にもメリットは大きいと思います。

まとめ

溶連菌感染症は、適切に対処すれば決して怖い病気ではありません。抗菌薬がとても有効ですぐによくなることが大半です。

ですが、溶連菌には保菌者という存在があるため溶連菌を疑う症状(発熱、咽頭痛、扁桃の赤みや膿)やかかりやすい年齢(15歳未満)などを考慮して、不要な検査やそれに伴う不要な抗菌薬投与は避けなければいけません。

診察はちゃちゃっとやっているように見えるかもしれませんが、私たち小児科医は溶連菌みたいなノドかな?それともインフルエンザっぽいかな?肺はゴロゴロしてないかな?何も問題ないかな?そんなことも考えながらノドを見たり、胸の音を聞いていたりします。

診察風景

寒川・茅ヶ崎・藤沢・平塚・近隣地域で子どもの風邪、長引く咳、アレルギーのこと、そのほか健康のことでお困りの方はお気軽にご相談ください。

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