2種類のインフルエンザワクチン
どちらを選ぶ?

注射イラスト 小児科一般

9月になってA型インフルエンザの患者さんを診察する機会が増えました。
インフルエンザウイルスは一般的な感染予防策が有効なので普段からの手洗い・手指消毒に気をつけて過ごしましょう。インフルエンザウイルスについては以前にブログで発信しています。

今回は、手洗いや手指消毒といった基本的な予防策からさらに一歩進んだ予防策といえるインフルエンザワクチンについて詳しくまとめました。

昨年日本で認可され、広く使えるようになった経鼻生ワクチン『フルミスト』についても、従来の注射による不活化ワクチンとの違いを比較しながら考えてみます。

インフルエンザワクチン、なぜ接種するの?

インフルエンザワクチンを接種する目的は2つあります。

発症を防ぐ
重症化を防ぐ

発症を防ぐというのは、体の中にあらかじめ「戦うための準備」をしておくことで、インフルエンザウイルスが体に入ってきても感染が成立しにくくなる、あるいは感染しても症状が出にくくなることを意味します。

重症化を防ぐというのは、インフルエンザにかかってしまった場合でも、長引く高熱・肺炎や脳炎などの怖い合併症を減らすことを意味します。

特に乳幼児や基礎疾患をもつお子さんや高齢者の方・妊婦は、インフルエンザが重症化しやすいとされているためワクチン接種が強く推奨されるのです。

擬人化したワクチン

従来の注射による不活化ワクチンは、インフルエンザウイルスを構成する成分の一部を取り出したものです。体内に注射することで、免疫細胞がインフルエンザウイルスの一部を認識してインフルエンザウイルス自身に対する抗体を作って、戦う準備をします。

そうすることで、実際にウイルスが体内に侵入した際に、速やかにこの抗体が働いて重症化を防ぐのです。毎年接種が必要なのは、流行するウイルスの型が変化するためです。そのシーズンの流行株に合わせてワクチンは作られます。近年はA型2株、B型2株に対応した4価ワクチンが主流となっており、より広い範囲での予防効果が期待されています。

新しいインフルエンザワクチン

従来の注射型ワクチンが苦手なお子さんに、朗報といえるのが鼻腔内にスプレーする経鼻生インフルエンザワクチン『フルミスト』です。

フルミスト

これは弱毒生ワクチンに分類されるもので、生きたインフルエンザウイルスを弱めた(弱毒化)したものを鼻の粘膜に投与することで実際に弱く感染させる形で免疫反応を誘導します。これにより、鼻や喉の粘膜において直接的にウイルスの侵入を防ぐ局所的な免疫(IgA抗体)が作られやすいという特徴があります。

そんな、フルミスト最大のメリットは何と言っても痛くないことだと思います。

注射の痛みや恐怖心が原因で、予防接種を嫌がるお子さんは少なくありません。その点フルミストは両鼻にわずか0.1mlずつスプレーするだけなので、子どもたちの負担が大幅に軽減されます。また、接種は1回で済むため通院の手間が省けるという利点もあります。

経鼻生インフルエンザワクチン自体は20年以上前からアメリカで使用されており、日本でも一昨年まで輸入(国内未承認)ワクチンと言う形で使用されており、ようやく昨年(2024年)から日本でも認可されたワクチンとして使用可能となりました。当院でも昨年から採用しています。

2つのワクチンを比べてみる

①経鼻生インフルエンザワクチン「フルミスト」

まず、フルミストは上述したように痛くないという大きなメリットがある一方、残念ながらいくつかデメリットも存在します。

まず、生ワクチンであるため接種後に軽い風邪のような症状(鼻水、鼻づまり、咳、頭痛、発熱など)が出現することがあります。風邪症状は、弱毒化されたウイルスが体内で増殖することで起こる免疫反応であり、ほとんどは軽度で一過性のものですが30〜40%程度の確率で出現するとも言われます。風邪の牛

そして、生ワクチンであるため弱い感染が成立した状態になってしまうため、フルミスト接種後の2週間程度はインフルエンザ迅速検査が陽性となる可能性があるため注意が必要です。

さらに、接種対象年齢にも制限があり、2歳以上19歳未満が対象となります。2歳未満の乳幼児や喘息の既往があるお子さん、あるいは免疫不全状態にある方や、そういった方と同居している場合は、フルミストは適応外となります。これは、弱毒化したウイルスであっても、免疫力が低い方ではインフルエンザを発症させてしまうリスクが完全に否定できないためです。

②注射による不活化ワクチン(従来のワクチン)

注射である不活化ワクチン最大のデメリットはやはり痛みではないでしょうか。

お子さんが注射を嫌がることは保護者だけではなく、私達医療者にとっても出来れば解消してあげたい課題です。実際に私の子どももワクチンは大嫌いで接種のたびに大暴れです。。

注射を打つ男の子

しかし、その一方で不活化ワクチンにもメリットは数多くあります

まず、最も重要なのは、その安全性と有効性の実績です。何十年にもわたり日本国内で広く使用されてきた歴史があり、そのデータが豊富に蓄積されています

また、生後6ヶ月から高齢者や妊娠中の方、さらには喘息や免疫不全など基礎疾患を持つお子さんなど、多くの方が接種できる点も大きな利点です。

しかも副反応は、発熱や接種部位の腫れなどがありますが、生ワクチンと異なり体内でウイルスが増えることで起こるワクチンによる風邪症状は起こりません

さらに、費用は2回打つ場合でもフルミストよりも安く済みます。

どちらを選ぶ?

当院では以下の点を参考にしてご家族で決めていただくのがいいと考えます。

・とにかく痛みを少なく
・少しでも長い予防効果
経鼻生ワクチン:フルミスト
・実績を重視
・費用が気になる
注射型の不活化ワクチン

完全に私見ですが、フローチャートを作成してみました。あくまで参考までに。

インフルエンザワクチンのチャート

注射による不活化ワクチンは、長年にわたり日本国内でも広く使用され有効性と安全性が確立されています。一方、フルミストは痛くないという大きなメリットがある一方で、接種後の風邪症状、インフルエンザ検査の陽性反応、適応の狭さ等のデメリットも多くあります

お子さんの特性やご家庭の状況によって判断は大きく異なります。慎重に比較検討した上で決定してください。気になることがある方は、信頼できるかかりつけ医に相談してみましょう。

まとめ

インフルエンザワクチンはお子さんを守るための大切な予防策です。

どのワクチンを選ぶにしても、まずはそのメリット・デメリット、そしてご自身のお子さんに適しているかどうかをしっかりと理解することが重要です。

かかりつけの先生とよく相談して、お子さんの健康状態や既往歴を考慮した上で、最適な選択をしてください。

安心してインフルエンザシーズンを迎えるために、今回のブログが参考になれば嬉しいです。

寒川・茅ヶ崎・藤沢・平塚で子どもの風邪、長引く咳、アレルギーのこと、そのほか健康のことでお困りの方はお気軽にご相談ください。

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参考文献

日本小児科学会「インフルエンザ予防接種の推奨と注意点について」:https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/20240909_keibi_i_vaccine.pdf

CDC「Seasonal Flu Vaccine Basics」:https://www.cdc.gov/flu/vaccines/index.html

世界保健機関(WHO)「Influenza (seasonal)」:<https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/influenza-seasonal>

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