溶連菌と診断された方の中で「ノドの痛みはなく、咳がひどかった。」という方がいたら実は溶連菌による発熱ではないかもしれません。検査して陽性なのに溶連菌じゃないってどういうことでしょうか?
今回は身近な感染症だけど、意外と診断が難しい溶連菌感染症について考えました。
溶連菌感染症とは?
そもそも溶連菌感染症とは溶血連鎖球菌というバイ菌が引き起こす感染症の総称です。溶血連鎖球菌を省略して「溶連菌」と呼ばれます。
細かい話になりますが…
溶連菌にはいくつかの種類がいて、感染力が強く私達の日常生活で特に問題になりやすいのはA群溶血性連鎖球菌というタイプです。Group A Streptococcusの頭文字をとってGASと略されることもあります。他にも新生児の場合に問題になりやすいB群溶連菌というタイプやC群、G群などもあります。またA群の中にも劇症型などもあり、話がまとまらなくなってしまいます。。
ということで今回は溶連菌=主にA群溶連菌による咽頭炎/扁桃炎としてお話します。
溶連菌感染症の症状
溶連菌感染症の主な症状は
- ノドの痛み
- 高熱
- 扁桃の腫れや膿がつく
- いちご舌
- 発疹(猩紅熱)
- その他の症状
頭痛、腹痛、吐き気、嘔吐など
溶連菌は細菌自体が悪さをする症状以外にも溶連菌の毒素によるもの、免疫反応によるものなど多彩な症状を起こしますが、カゼと違って咳や鼻水のような症状はあまり認められません!!
(小さなお子さんの場合や、他の風邪を合併していたら咳や鼻水が出ることもあります)
これはとても大切なところです。自分が感染症を教える先生ならテストに出します。
【Centorスコア】
溶連菌感染症の診断には、CENTORスコア(下は年齢を加味するとMcIsaacスコア)という有名な指標があります。以下の4つの項目に基づいて点数をつけて、溶連菌感染の可能性を評価します。
- 38℃以上の発熱(+1)
- 前頸部(首の前側)リンパ節の腫れや痛み(+1)
- 扁桃の腫れや白斑(+1)
- 咳がない(+1)
- 15歳未満(+1)
- 45歳以上(−1)
これらの項目のうち、1〜5に該当するものがあれば+1点、6に該当する場合はー1点として合計点で評価します。
- 0~1点: 溶連菌感染の可能性は低いと考えられ、検査は不要な場合が多いです。
- 2点: 溶連菌感染の可能性が中程度とされ、迅速抗原検査や培養検査を検討します。
- 3点以上: 溶連菌感染の可能性が高いとされ、検査が推奨されます。
これだけで確定できるものでは決してありません。どちらかというとこれを参考にして「溶連菌だ!」というよりは「溶連菌ではなさそうだ」がより重要かなと思っています。
大事なことはこういった項目も意識しながら、目の前の患者さんの症状と所見を観察して必要な検査や治療を選択することです。
たとえば、Centorスコアが低く診察や病歴からも溶連菌らしくないのに「念のため溶連菌の検査をしておこう」といった方針をとると、残念ながら後述する偽陽性/保菌者を見つけてしまっているということもあるかもしれません・・・これは結果として、無駄な抗菌薬投与につながったり、裏に隠れている大きな病気を見逃してしまう可能性があります。
溶連菌は様々な合併症を起こすことが問題となりますが、合併症の頻度が15歳未満に多く注意が必要です。ただし、子どもの中でも3歳未満ではリウマチ熱などの合併症が少ないので、そもそも溶連菌を疑って検査すること自体が不要という考え方もあります。(家族内に溶連菌にかかった人がいる場合は検査を考慮すべきともされています)
検査
診断を確定するための検査にはいくつかの種類があります。検査方法はいずれも
▶Centorスコアのところで述べた15歳というところと合致します。やはり不要な検査は極力避けるということでしょう。
上の3つはいずれも綿棒でノドの奥をこすって採取した咽頭ぬぐい液というものを検体として使用します。検査の痛みは強くはありませんが、オェッとなってしまいますし子どもたちには恐怖が大きいため、検査負担の観点からも無駄な検査は避けましょう。
溶連菌感染症の治療
溶連菌感染症としっかりと診断されたら抗菌薬で治療します。抗菌薬を正しく服用することでまず第一に症状が早く改善します。そして特に大切なことが合併症を防ぐことです。そのためにも溶連菌感染の時には定められた期間は必ず薬を飲みきるようにしましょう。
ペニシリンにアレルギーがある場合は他の抗菌薬が処方されますが原則としてペニシリン系抗菌薬(ワイドシリンやアモキシシリンなど)を使用します。
①よく効く
②薬剤耐性の問題を起こしにくい
③薬価が安い
治療期間は1日2〜3回(1回にたくさん飲める自信があれば1日1回でも大丈夫ですが)で10日間となります。必ず飲み切るようにしましょう。
また、通常の風邪と同様に水分摂取や安静・睡眠もとても大切です。
溶連菌は適切な抗菌薬内服開始から24時間が経過しており元気で熱もなければ登園登校が可能です。ただし、登園登校しても薬は休まないようにしてください。
保菌について
溶連菌には「保菌者」と呼ばれる、症状がない(=溶連菌感染症ではない)にも関わらず、ノドに溶連菌を保有つまりペットのように飼っているような状態の人がいます。
保菌状態の溶連菌は自分にも周りにも悪さをしないと考えられているため通常は治療を必要としません。この保菌者の存在こそが溶連菌診断を難しくさせる元凶です。
②溶連菌が増殖して熱やノドの痛み
▼ ▼ ▼
①でストップした状態が【保菌】
②までいくと【溶連菌感染症】
ということです。
A.こども:20% おとな:2%
【溶連菌検査が陽性】=【溶連菌感染症】とすると、元気な子どもたちも検査をすれば10人中2人くらいは溶連菌感染症と診断されて無駄な治療をされてしまうということです。
あえて極端な表現をすると
【溶連菌検査が陽性】
これは全く別物!!
検査をしてもらって溶連菌が陽性でも熱の原因が溶連菌ではないことはたくさんあるということです。
溶連菌感染症後の尿検査
溶連菌感染症後には様々な合併症があります。過去にはリウマチ熱が大きな問題でしたが私が小児科医になったころにはすでにほとんど出会うことのない疾患になりました。環境が衛生的になったことやリウマチ熱を起こしやすい溶連菌株が減ったことが原因のようです。
いまだに問題となるのは腎炎(正式には溶連菌感染後急性糸球体腎炎)です。溶連菌感染後2週間程度で発症すると言われています。
そのため、溶連菌にかかった後は尿検査を行って腎炎になっていないか確認する必要があると考えられていました。しかし、最近では尿検査は行われないことも増えています。当院でも実施していません。
尿検査が不要な理由ですが、大前提として溶連菌感染症後に尿検査をすることで腎炎を予防するというエビデンスがないことです。
個人的な考えになりますが、
②タイミングによっては無意味
③無駄な医療費を減らす
一つずつ説明します。
①溶連菌感染後の腎炎は軽症〜重症まで様々ですが、治療が必要となる腎炎ならばオシッコの色が変わったり、手足や顔に浮腫みが出ます。これらの症状が出たら検査しなければいけまんせが、症状の出ないような軽症の腎炎は自然に治癒します。
②溶連菌感染後の腎炎が2週間程度で必ず発症するわけではありません。3〜4週間以上経ってから発症することもあります。また、溶連菌にかかったことに気付かずに腎炎を発症してから溶連菌の存在が判明することもあります。さらに、1回の尿検査が正常だからといって腎炎を否定する根拠は乏しいです。ということで、ピンポイントで検尿の日を決めることは私にはできません。。
③小児医療証があると実感が少ないですが窓口支払が無くても、医療機関を受診すれば医療費が発生します。検尿をすれば検査代もかかります。医療費削減は未来の子どもたちの生活を守る大切な課題です。必ずしも必要といえない検査のために仕事を休んだり時間を作るという保護者の負担も無視できません。
予防
溶連菌にはワクチンがありません。一般的な風邪の対策と同じです。
- 手洗いの徹底:どんな感染症も手を介して拡がることが多いため、溶連菌も手洗いがとても大切です。また溶連菌にはアルコール消毒も有効です。
- うがい:実は明確に感染症が予防できるというデータは乏しいですが、口の中を清潔に保つことは感染予防以外にもメリットは大きいと思います。
まとめ
溶連菌感染症は、適切に対処すれば決して怖い病気ではありません。抗菌薬がとても有効ですぐによくなることが大半です。
ですが、溶連菌には保菌者という存在があるため溶連菌を疑う症状(発熱、咽頭痛、扁桃の赤みや膿)やかかりやすい年齢(15歳未満)などを考慮して、不要な検査やそれに伴う不要な抗菌薬投与は避けなければいけません。
診察はちゃちゃっとやっているように見えるかもしれませんが、私たち小児科医は溶連菌みたいなノドかな?それともインフルエンザっぽいかな?肺はゴロゴロしてないかな?何も問題ないかな?そんなことも考えながらノドを見たり、胸の音を聞いていたりします。
寒川・茅ヶ崎・藤沢・平塚・近隣地域で子どもの風邪、長引く咳、アレルギーのこと、そのほか健康のことでお困りの方はお気軽にご相談ください。