百日咳とは?
子どもたちを守るために知っておきたいこと

咳をする赤ちゃん クリニック

長引く咳の原因は様々ですが、長引く咳を引き起こす感染症の代表が百日咳です。

東京都の百日咳発生状況報告東京都感染症情報センター

百日咳の流行状況

赤線が今年の発生状況ですが、このブログを書いている令和7年4月末時点で百日咳の報告数が例年の同時期と比べて異常に増えている状況です。当面は流行の懸念があります。

今日は百日咳(ひゃくにちぜき)についてまとめました。

百日咳とは?

百日咳は、「ボルデテラ・パータシス(Bordetella pertussis」という舌を噛みそうな名前の細菌が原因で起こる呼吸器感染症です。

この病気の特徴は、長く続く強い咳です。

息苦しい赤ちゃんのイラスト

赤ちゃんでは、咳によって息ができなくなったり、無呼吸発作を起こすなどの重症化をみせることもあります。特にワクチン未接種の場合には命に危険が及ぶこともあります。日本ではワクチンの普及により死亡率は激減していますが、今でも世界の百日咳による小児死亡数は年間19万人以上にのぼるとされています。国立健康危機管理研究機構感染症情報提供サイト

赤ちゃんは咳をする力が弱いため「コンコン」と静かに咳込むだけに見えてしまい、重症化しても気づきにくいことがあるためより一層の注意が必要です。

百日咳はどうやって感染するの?

百日咳はくしゃみや咳などの飛沫感染で広がります。
特に気をつけなければいけないのが、感染源の多くが“一見元気そうな”家族や身近にいる大人であるということです。

過去にワクチンを接種していても年数とともに免疫が薄れている場合がありかかってしまうことが少なくありません。大人の場合は百日咳にかかっても軽症で済んでしまうことがあるため、咳はしていても元気だし、まさか自分が百日咳にかかっているとは気づかないことが多いようです。

咳をまきちらかす人

そのため、悪気もなく気づかないまま周囲に菌を撒き散らしてしまい、感染が拡大していってしまうのです。

百日咳の症状は?

症状は段階的に進行するため、見た目の症状だけで百日咳と診断するのは難しい(というかほぼ不可能)といえます。

三段階に進行しますが、特徴的な咳は痙咳期に目立つことがあります。

第1期:カタル期(初期)

感染から約1〜2週間の間は、鼻水、のどの痛み、微熱、軽い咳といった、いわゆる風邪と区別がつきにくい症状が現れます。この時期はまだ咳も軽く、百日咳とは気づかないことが多いのですが、実はもっとも感染力が強い時期でもあります。

咳をする犬

第2期:痙咳期(激しい咳の時期)

発症から2〜6週間(長いと8週間以上)の間は、強く特徴的な咳が出やすい時期です

短い咳が連続的に起こる『スタッカート
笛のように大きく息を吸う『ウープ
これらを繰り返す『レプリーゼ

これが百日咳に特徴的な咳といわれるものです。全ての患者さんで、この症状が出てくれたら診断は比較的楽かもしれませんが、実際には特徴的な咳の出ている百日咳患者さんを見る機会は多くありません。熱が出ることはあまりなく、全身状態も比較的良いことも百日咳の特徴ですが、咳そのものは非常に強くて体力を消耗します。とくに夜間の咳が激しく、眠れないことも少なくありません。稀ですが、ひどくなると咳をしすぎて顔が浮腫んだり、目が充血することもあります。

激しい咳の犬

第3期:回復期

咳の回数や激しさは少しずつ改善していきますが、完全に回復するまでには3〜4週間以上、場合によっては1か月以上かかることもあります。気道過敏性が残り、軽い刺激でも咳が出やすい感染後咳嗽の状態が続くことがあります。

咳する犬

赤ちゃん(特に生後半年未満)では重症化することがあるためより一層の注意が必要です。無呼吸や顔色の悪化(チアノーゼ)、持続する食欲低下、全身のぐったり感といった症状が見られることがあります。咳に加えてこのような変化や心配なことがあれば、早めに医療機関を受診しましょう。

百日咳の検査

百日咳を引き起こす菌(百日咳菌・パラ百日咳菌)を検出することで診断をつけます。これまでは菌を検出することは簡単ではなく結果が出るのに数日必要でしたが近年は簡便で精度の高い検査を使えるようになりました。

1.遺伝子検査

百日咳を起こす菌のDNAを抽出して、人工的に増幅して診断する方法です。非常に感度が高くて発症2〜3週間以内であれば正確な診断につながります。(発症から時間が経ちすぎると感度が低下するため)PCR法、LAMP法の2つの方法がありますが、いずれも精度が高く有用な検査です。

当院ではSpotFire®というリアルタイムPCR検査が可能な製品を使用しており、検査して20分程度で結果を知ることが可能です。

欠点としては、百日咳やマイコプラズマを疑うときには検体採取時に綿棒を鼻の奥までしっかりと(インフルやコロナの時よりも強めに)入れなければ感度が下がると思いますので痛みはやや強いと思います。

2.血液検査(抗体検査)

百日咳に対する抗体を測定することにより、過去の感染やワクチン接種歴を推測することができます。ただし、発症初期には抗体が十分に上がっておらず正確な診断が困難なことが多々あります。検査結果によっては2週間後に再度血液検査を行わないと診断が確定しないことがあります。

うまく使うことで発症時期の推定なども可能であり、長びく咳の鑑別として百日咳も考えられる時などに行うことは極めて有用な検査だと思います。

百日咳の治療

マクロライド系(『クラリスロマイシン』や『アジスロマイシン』等)と呼ばれるグループの抗菌薬が推奨されます。必ず指示された期間は飲み切るようにしましょう。

重要なのは出来るだけ早期に診断をつけて治療を開始することです。

百日咳は菌から放出される毒素が原因で咳が出ます。百日咳を起こす菌を早いうちに退治すれば、出てくる毒素を少なくすることができて、菌の排出も抑えることができるので症状が軽く済んだり感染拡大を抑えることも可能です。

逆に治療開始が遅くなると、抗菌薬が無効のこともあります。多くは自然治癒しますが、周囲に感染を広げてしまったり乳幼児では重症化することもあります。

やはり感染症は『早期診断・早期治療』が大切です。(早期診断が難しい病気もたくさんありますが、近年は早期診断できる検査機器の進歩がめざましいです)

百日咳から赤ちゃんを守る方法

検査や治療は大切ですが、最も大切なことは予防することです。

生後2ヶ月でワクチンデビュー

日本では、生後2か月から五種混合ワクチン(DPT-IPV-Hib)」の接種が始まります。このワクチンの中には『百日咳の成分(DPTの“P”)』が含まれています。

定められたスケジュールを守って、なるべく早めに接種を進めることで、百日咳に対する免疫を獲得することができます。

予防接種

Cherry JD らの報告(Pediatrics, 2005)では、3回接種後の百日咳に対するワクチン有効性は約90%とされています。ただし、免疫は年齢とともに減弱するため、定期的な接種が重要です。

妊娠中の予防接種

妊娠27〜36週の間に三種混合(Tdapワクチン:破傷風、ジフテリア、百日咳)を接種することで、胎盤を通じて赤ちゃんに抗体が移行します。この移行抗体のチカラは1〜2ヶ月で切れてしまうとされていますが、方法①の五種混合や四種混合ワクチンを生後2ヶ月から接種することで、生後すぐの赤ちゃんを長期間、百日咳から守ることができる仕組みを作れます。

予防接種する妊婦

英国で行われた研究(Dabrera G, Clin Infect Dis, 2015)では、妊娠中にTdapを接種した母親から生まれた赤ちゃんの百日咳の発症率が、未接種群に比べて91%減少していました。

現在、日本では妊婦へのTdapワクチンは定期接種にはなっていませんが希望があれば自費で接種することも可能です。なお、赤ちゃんに打つ五種混合や四種混合は大人には適応がありませんのでご注意ください。

※妊婦さん以外にも赤ちゃんのまわりにいる家族(特に両親、祖父母、兄弟姉妹)が、百日咳の予防接種歴を確認し、必要に応じて追加接種を受けることも効果的だと思います。
小さなコミニュティ内で予防することをコクーン戦略と呼ぶことがあります。コクーンというのは繭のことで、繭でくるむように大切に守るという意味で名付けられたそうです。赤ちゃんを守るのは、私たち大人の大切な役割だと思います。

特に、兄姉が保育園や幼稚園、小学校に通っている場合は感染のリスクが高まるため、百日咳に限らず手洗いや適切な栄養や睡眠、そして必要な予防接種を受けるように心がけましょう。

まとめ

百日咳は、大人にとっては一時的な咳で済むことが多い一方、赤ちゃんにとっては命に関わる感染症です。

症状が分かりづらく、早期治療が難しいこともあります。かからないための予防が大切です。定期接種は、生後2か月から開始しましょう。妊娠中のママに三種混合ワクチン(Tdap)は、生まれてくる赤ちゃんに抗体をプレゼントする良い手段です。

日常的な手洗いや咳エチケットは自分自身を守ることで、家庭内に菌を持ち込むことが減って間接的に赤ちゃんを守る大切な感染対策となります。

定期接種は生後2ヶ月から
妊娠中に三種混合ワクチン
手洗い・咳エチケット

赤ちゃんは自分でワクチンを受けに行くことも、手を洗ったりマスクをすることもできません。私たち大人たちが、できることをしてあげましょう。

ニュースでは不安を煽るような報道が多いですが、百日咳はワクチンで防ぐことが可能な病気です。早期診断ができれば有効な薬もあります。予防接種も含めて気になることがあればかかりつけの先生に是非相談しましょう。

寒川・茅ヶ崎・藤沢・平塚など近隣地域で子どもの風邪、長引く咳、アレルギーのこと、そのほか健康のことでお困りの方はお気軽にご相談ください。

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【参考文献】

・Cherry JD. Pediatrics. 2005;115(5):1422–1427.
・Dabrera G et al. Clin Infect Dis. 2015;60(3):333–337.https://doi.org/10.1093/cid/ciu821
・厚生労働省 感染症発生動向調査:https://www.niid.go.jp/niid/ja/pertussis-m.html

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