今日の主題は
食物アレルギーと皮膚の関係
前回の記事では全体的なことを書きましたが、今回は少し細かいことまで書いていきます。
食物アレルギーの対策はとても奥が深いものです。
いっぺんに色々と考えてしまうと混乱してしまうので
(食物アレルギー未発症)
進行予防
(食物アレルギー発症済)
緊急時対応
(誤食などで症状が出た)
と別々に考えると分かりやすいと思います。
はじめに
このブログでは発症予防について、とくにスキンケアについて書いていきます。
「食事」
という生きていく上では絶対に避けては通れない行為を強く制限する病気が食物アレルギーです。
いま目の前にある病気だけを診るというスタンスでは診察できません。
食物アレルギーはこれから何十年・・・もしかしたら百年以上続くかもしれない、目の前にいる子ども達の長い長い食生活を診るという意思を持って挑む疾患だと思っています。
だからこそアレルギーかかりつけ医が必要なのだと思います。
なぜ発症するのか?
食物アレルギーがなぜどのように発症するかは残念ながらはっきりとは分かっていません。
なぜ発症するかが確実に分かれば治療にも応用されてアレルギーで困る人が減るのですが、まだまだそれは遠い未来の話になりそうです。
原因はおそらくは一つではなく様々な要因が関与するのでしょうが、
一つ有力な説があります。
それは皮膚からアレルゲンが侵入することでアレルギーになってしまうという説です。
このような仕組みを
経皮感作
といいます。
自分が学校の先生なら、「ここテストに出ますよー」と確実に言うと思います。
経皮感作という考え方
食物アレルギーと皮膚は一見関係がなさそうですが、実は切っても切れない深い関係があります。
そもそもの始まりは、2008年にイギリスのLACK博士が
二重抗原曝露仮説(dual allergen exposure hypothesis)
という考え方を提唱したことでした。
これはその論文の有名なイラストです。
(現在は様々な後追い研究で仮説ではなく真説といえる状況になりました)
出典:アレルギーは皮膚から始まる? ―最近の研究より―(折原芳波 WASEDA ONLINE 2016/2/8)
専門用語があって分かりにくいですね。
かんたんに言えば、アレルゲンは皮膚から侵入すると「こんな所から入ってくるなんて敵だな」と認識してアレルギーを進行させるのに対して、食べて消化管に入ると「体内に侵入しても大丈夫なものなんだ」と認識してアレルギーになりにくいということが書いてあります。
▶食物アレルギーになりやすい
▶食物アレルギーになりにくい
ということを示しています。
食べたときにアレルギーになりにくい理由は
「消化管から吸収された場合は、体内に侵入してもいいもの」と許可する仕組みがあるからです。
このように異物が体内に入ることを許可するシステムを
免疫寛容
と呼びます。
食物アレルギー診療においては、どのように免疫寛容を進めていくかが重要です。
食物アレルギーの発症を予防するには
皮膚をきれいに保ちましょう
・食べることで免疫寛容
無駄な除去食は避けましょう
この2つを徹底することが需要なのです。
食物アレルギーのパラダイムシフト
この説よりも前は
「“食物”アレルギーなんだから、未熟な赤ちゃんのお腹にアレルゲンが食べることで侵入してきて、アレルギーが進行するんだろう。だから、卵や牛乳や小麦などのアレルゲンになりやすいような物は成長して大きくなるまで避けておこう。タンパク質豊富で負担になるようなお肉とか動物性タンパクも念の為に避けておこう。」
という考え方が主流だったようです。
そして、皮膚が荒れている子も多いけれど、それは食べ物のせいだろうから除去食にすれば皮膚治療にも有効だろう。
と考えられていました。
ところが
その考え方は、まるっきり逆だったのです。
衝撃的です。
良かれと思って指導していたことが、食物アレルギーを悪化させることになっていたのです。
この時期を境に食物アレルギー診療は大きく変わりました。
まさに
「その時歴史が動いた」
です。
パラダイムシフトという言葉があります。
当たり前だった考え方や価値観が劇的に変化することを表した言葉です。
・荒れた皮膚が食物アレルギーに悪影響を与えうる
・食物アレルギーの予防には食べたほうが効果的
ところが未だに昔の考えた方のままでむやみやたらに「食べない」指導をされていることが少なくありません。かと言って何でもかんでも「食べればいい」というものでもありません。上で書いたように食物アレルギーだとはっきりしているもの・アレルギーの疑いがあるものについては食べてよいかどうかを主治医と相談してから食べてみるべきでしょう。
以前のブログで食物アレルギーの基本は除去食だと書きましたが、それはあくまでも既に食物アレルギーを引き起こすとわかっている食材に限った話です。
https://www.jsaweb.jp/modules/news_topics/index.php?content_id=217
興味のある方はこちら↑からご確認を。
予防の第一歩はスキンケア?
食物アレルギーを予防するうえで一番大切なことは何でしょうか
ここで質問です。
私達の体において最大の臓器は何でしょうか??
肝臓? 脳? 心臓? 腎臓? ・・・・?
答えは 皮膚 です。
皮膚は臓器という感じがしないかもしれませんが、私達の体を優しく強く包み込んで外敵から守ってくれる大切な臓器です。
その最大の臓器である皮膚には抗原の侵入を発見して敵だと認識してしまい結果としてアレルギーを引き起こす免疫細胞が無数に存在しています。
抗原とはバイキンやウイルスなどの感染症を引き起こすような外敵だけではなく、アレルギーを引き起こすダニや花粉、カビなども抗原といいます。
食物アレルギーでいう抗原というのは「食べかす」ということになります。
元気でバリア機能も万全な皮膚ならば少しくらいの抗原(食べかす)がくっついても跳ね返します。
ところが
荒れた肌では抗原(食べかす)がどんどんと皮膚から侵入してきてしまいます。
例えば、
レンガの家の壁を破って侵入することは簡単ではありませんが、ワラで出来た家に侵入することは難しくないですよね。
抗原(食べかす)も同じように健康でバリア機能が保たれた皮膚には簡単に入ることはできません。
しかし、荒れて バリア機能が弱った皮膚からは簡単に侵入してしまいます。
その結果、抗原(食物アレルゲン)は免疫細胞に捕まって アレルギーが進行してしまうのです。
荒れてしまった皮膚でも適切な治療を行うことで皮膚のバリア機能を元気な状態に戻すことは可能ですが程度によっては時間がかかったり強い治療が必要になることがあります。
理想は荒れてしまう前に予防的にスキンケアを行うことです。
そのほうが健康な皮膚を保ちやすいからです。そしてそうすることで皮膚からのアレルゲンの侵入は最小限にできると考えられます。
では実際にスキンケアを行うことで食物アレルギーの発症を予防できるのでしょうか?実はこれについてははっきりとした結論は出ていません。生まれてすぐにスキンケアを行うことでアトピー性皮膚炎の発症予防効果はあったが食物アレルギーの予防効果は認められなかったという報告もあります。
しかし、アトピー性皮膚炎を治療することで食物アレルギーの発症を予防する効果は示されており現在も大規模な研究が進行中(2022年10月時点)ですのでその結果が出たらまたブログでも発信したいと思います。
いずれにせよスキンケアを行うことがデメリットとなることはありません。
なんとなく動物の肌は強そうに思えますが・・・
魚は常に水の中で暮らしているので保湿の必要もなく紫外線もほとんど影響しません。
カエルは半分水の中で生活しています。
犬は毛で守られています。
実は人間は動物界の中でも屈指の皮膚が強い生き物なのですが、それは陸上という過酷な環境に適するように進化していった証拠ともいえるのかもしれません。
▶子どもは乾燥肌からくる肌荒れが中心です。保湿を中心に清潔・保護を行いましょう。
スキンケアについての詳しい話はとても長くなるので、またBlogで発信します。
食物アレルギーのこと③では食べることについてもう少し掘り下げて書こうと思います。
2023年春開業の小児科・アレルギー科クリニックです。
寒川・茅ヶ崎でアレルギーにお困りの方はご相談ください。