「喘息のけがありますね」
「喘息っぽいですね」
風邪で咳が出たときに小児科や内科を受診してこのように言われたことはありませんか。
私自身もこのような質問をなげかけることは多いです。
ですが、そもそも
という方も多いと思います。
ということで、今回は
子どもの喘息
について書いていきます。喘息について一回では書ききれないので今回は診断について考えます。
喘息の定義
まずは言葉の定義から。
気管支喘息については日本小児アレルギー学会からガイドラインが発行されています。
今現在、最新のものは「小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2020」ですが、そこでは気管支喘息について次のように定義されています。
「発作性に起こる気道狭窄によって喘鳴や呼気延長、呼吸困難を繰り返す疾患である。これらの臨床症状は自然ないし治療により軽快、消失するが、ごく稀には致死的となる。」
・・・
医学的な用語が多くて分かりづらいと思いますが、
悪くなる(発作)、良くなるを繰り返す
発作が出ると息がしづらくて苦しくなる
最悪の場合は命を落としてしまう
ということです。急に悪くなることが発作ですが、実は日々小さな発作がある/持続しているのに苦しいことに慣れてしまい自分が苦しいと気づいていないこともあります。
幸いにも日本では小児の喘息死は2017年にゼロになりました!
きちんと治療すれば死ぬような強い発作を起こすことなく管理できる病気になったのです。
喘息治療の大きな目標「喘息死をゼロにする」は先人医師たちの努力もあって達成されました。
個人的な意見ですが、今後の喘息治療は
100年先にも健康で過ごすために、子どもの頃から喘息を上手に管理する時代
だと思います。
子どもの喘息の診断
喘息に限らず、病気を診断するということは簡単なようで難しいものです。
極端な話、内科系の病気は診断さえついてしまえば教科書やガイドラインを読めばある程度やることは決まってきます。
診断をつけるということは内科医の最も大切な仕事とも言えます。ときには診断がつかないまま治療を開始して、その治療への反応をみて診断が正しかったかを考える診断的治療という手法をとることもあります。(診断的治療の考えについてはまたの機会に)
では、喘息の診断はどのようにつければよいでしょうか?
まずは成人の喘息診断から確認しましょう。
(喘息予防・管理ガイドライン2018より)
となっています。
それでは子どもについてはどうでしょうか。
(小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2020より抜粋)
長くて分かりづらいですが、喘息という病気としてのキーワード「気流制限、気道過敏性亢進」など病気の本質は大人も子ども変わりはありません。
にもかかわらず、診断することが難しいというのが子どもの喘息の特徴であり最大の問題だと思います。
なぜかといえば、子どもでは気道炎症の存在や過敏性の亢進などを検査で証明することができないからです。
これが子ども(乳幼児)の喘息診断を難しくする最大の要因だと思います。
(他にも子どもたちは自分で症状を訴えられなかったり、風邪を繰り返しやすいなどもありますが・・)
では、どのように子どもの喘息を診断するかといえば得られた情報をもとに総合的に判断するしかないのです。
そのためには経過を追っていくということも重要で
生後何ヶ月・何歳くらいから
頻度はどれくらいで
治療への反応はどうで
何回くらい繰り返しているか
など確認することは多くあります。普段から「かかりつけ医」に診てもらうことが大切といえます。毎回違う先生に診てもらっていては繰り返しているかどうかやアレルギー素因があるかどうかが分かりづらくなってしまいます。
喘息の検査
たとえば新型コロナウイルスのように綿棒を鼻に入れて検査して陽性反応が出れば確定診断する。というような便利な検査は喘息に関しては残念ながら存在しません。
大切なのはあくまでも病歴や症状であって、検査は補助的なものです。とはいえ、各種の検査は喘息の診断や治療効果判定にとても有用であり喘息診療には欠かせないものではあります。
喘息の検査について代表的なものをいくつか紹介します。
①血液検査(血清総IgE値)
喘息に限らずアレルギー疾患で上昇します。ただし正常と異常の境目がはっきりしない部分があり、あくまでも患者さんのアレルギー状態を“大まかに”反映する指標にすぎません。喘息の診断にどこまで有用かはなんともいえませんが、特殊な治療(抗IgE抗体製剤オマリズマブ)を使用するときにはこの値で投与量が決まります。
②血液検査(アレルゲン特異的IgE抗体検査)
吸入アレルゲンとくにダニアレルギーが問題となることが多く、ダニアレルギーがあることは喘息診断の補助になるととともに環境整備の指導内容に関わってきます。ダニ以外にもカビや昆虫(ゴキブリやガなど)も問題となることがあります。
最近では指先からの一滴だけの血液検査で多くのアレルゲンを検査できる機械(ドロップスクリーン)もあります。ダニやカビなどの吸入抗原チェックには十分な性能を持っています。身体的・時間的な負担も少なく有用な検査といえます。
③呼吸機能検査(スパイロメータ)
呼吸機能検査はかんたんにいえば肺活量を測るような検査です。イラストのようにマウスピースを加えて思いっきり息を吐き出さなければ実施できません。私の経験上はどれだけ聞き分けのある子でも未就学児ではきちんとしたデータを取るのはほぼ不可能でした。
この検査では肺活量をみるだけではなく、一秒間に吐き出せる空気の量・吐き出すスピードなどを記録して評価できます。喘息診断の気流制限を評価することができます。
④呼気一酸化窒素測定(FeNO)
この検査は比較的新しい検査です。気道で炎症が起きると一酸化窒素が作られます。吐いた息の中にどれだけ一酸化窒素が含まれているか測定することで喘息診断の気道炎症をチェックするのがこのFeNOという検査です。引用:赤ちゃんの手作りおもちゃ.com
このようなオモチャで遊んだことがありませんか?なんて名前だか分かりませんが、ピンポン玉みたいな小さな玉をプカプカと浮かせるこのオモチャ。
FeNOはこのオモチャと同じように慎重に息を吐き続けることで実施できます。検査画面には風船や女の子の絵が出てくるのでゲーム感覚でうまくできる子もいます。
他にも画像検査(胸部X線やCTなど)、喀痰分析(好酸球)などありますが、小児での実施は困難ですしあくまでも喘息診断の補助的な役割にとどまります。
喘息っぽいとは?
冒頭にあげたような「喘息っぽい」「喘息のけがある」というのはすなわち喘息と同じ発作を起こしているということです。
ですが、診断がしっかりとついていないと喘息と言い切れないためこのような表現になります。
喘息は診断目安に 反復する=繰り返す という言葉が入っています。
つまり、「喘息っぽい」「喘息のけがある」ということを複数回指摘された場合には喘息の可能性が高いということになります。
ということは、繰り返しているかどうかが分からなければいつまで経っても診断がつかないということです。繰り返すかどうかはとても重要な情報なのです。
子どもの喘息診断の難しさ
喘息が疑わしい乳幼児について保護者からお話を聞いていると
「近くの病院で検査をして喘息じゃないって言われてます」
と言われることがあります。
さきほど書いたように小児喘息診断の目安からは子どもの喘息というのは
検査して分かるというものではなく、総合的に判断するもの
です。
それでは、この子はどのような検査をして「喘息じゃない」と言われたのでしょうか?
私が多く経験してきたパターンは・・・血液検査でダニやハウスダストにアレルギー反応がないことを確認しただけで喘息ではないと言われていることが多い印象です。
しかしダニやハウスダストに反応しない子のなかにも喘息の子はたくさんいます。血液検査結果のみで喘息かどうかが判定されてしまっており総合的に判断されていない子が多いと感じています。総合的に判断するというのは医師の裁量による部分が大きく、そこが子どもの喘息診断を難しくさせているのだと思います。
アレルギー血液検査は
というものだと思います。
私は喘息かどうかの判断(個人的)として
聴診で喘息の音(Wheeze)を確認
その他の病気の可能性がない or 低い
シンプルにこの三点でひとまず喘息と考えます。そして治療介入して反応を見ながらさらに診断を深めていくという形で対応しています。喘息の治療をして改善すれば、「やっぱり喘息だった」と分かるといった具合です。
そして、診断をつけたら次に治療をどうするか考えます。
保育園ユーザーかどうか
喫煙者やペットなどの生活背景
保護者の希望
血液検査でのアレルギー反応の有無 などなど
治療方針はガイドラインに沿って考えていきますが患者さんごとに微調整が必要だと思います。ガイドラインで治療方針を決める上で重要なのは重症度や頻度ですが、それだけではなく子どもの置かれている様々な状況を真に総合的に判断しながら治療を決定していくべきだと考えています。
「木(病気だけ)を見て、森(患者さん)を見ず」
のような診療にならないような心がけが大切です。木の隅々までチェックして、森全体を考えるという姿勢が理想です。
アレルギーは小児科領域では最もよく出会う慢性的な疾患です。総合的に判断するというのは喘息だけに限らずアレルギー全般で言えることです。
アレルギーかかりつけ医の重要性については以前のブログにも書きましたが、
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