マイコプラズマ肺炎
長引く咳には要注意

マスクしてる置物 小児科一般

ここ数週間、診察をしていると長引く咳の患者さんがとても多いことを実感します。

このブログを書いている今日8月10日はパリオリンピックも終盤となっていますが、過去にはオリンピック病と言われてオリンピックイヤーに流行する感染症があると言われています。それは・・・

マイコプラズマ肺炎

です。

まずは、東京都のマイコプラズマ報告数を見てみましょう。

マイコプラズマ感染状況(東京都報告)

参考URL:東京都感染症情報センター

赤線が今年2024年です。 25週(1年を52週としているので25週=6月下旬)頃から急激に増加しています。

ちなみに他の色は2020〜2023年を指しますが、オレンジ色の2020年は本来東京オリンピックが予定されていた年になります。

2024年12月7日追記

さらに増えました・・・が、ようやく減少傾向に転じたようです。まだまだ要注意ですが、このまま収束することを期待しましょう。

最近は4年周期説は当てはまらない印象でしたが、もしかしたら再びオリンピックイヤーに流行る感染症になるのかもしれません。

このようにちょっと変わった感染症【マイコプラズマ】について今回は考えてみます。

マイコプラズマとは?

マイコプラズマは細菌です。細菌とウイルスの違いはサイズ細胞壁を持つかどうかなどですが、マイコプラズマは細菌のくせにサイズが小さくて細胞壁も持っていません

マイコプラズマは軽い風邪症状から肺炎まで幅広く呼吸器症状を引き起こします。
免疫力が強く発揮されることで症状が重くなりやすいので赤ちゃんよりも、学童以降の方が肺炎を発症しやすいです。

実際に私の経験でもマイコプラズマで入院治療していたのは小学生や中学生ばかりでした。

ただ、このように書くと、『マイコプラズマ=肺炎』と間違った印象を与えてしまいそうなので補足しますが、マイコプラズマに罹っても大半の人はただの風邪で終わります。

・マイコプラズマは学童以降に「肺炎」を起こすことがある
・でも、実際はほとんどが「ただの風邪」で済む

症状の経過

発熱や倦怠感、頭痛などから始まり数日して乾いた咳が出始めます。長引くと徐々に痰混じりの咳に変わることもあります。

初期症状は、一般的な風邪と区別できないため早期に発見するのは難しいです。

見分けがつかない

よく見られる症状をまとめると

  • 乾いた咳
    いちばん重要な症状。特に夜間寝てる時に悪化しやすく、ひどいと数週間続きます。
  • 発熱
    熱は特徴的パターンは無く、微熱もあれば高熱もあるし、すぐ下がることもあれば長引くときもあります。
  • 倦怠感
    初期や重症化した時には強い疲労感や体のだるさを感じます。
  • 呼吸苦
    喘息のように苦しくなることがあります。初めての喘息発作と間違われることもあります。また、深呼吸や咳をすると胸が痛むことがあります。

インフルエンザやコロナとの違いとして、鼻水や喉の痛みは少ないです。

診断

マイコプラズマ肺炎の精確な診断は難しいです。

まず、聴診しても呼吸音は正常なことが多いです。
レントゲンを撮るとスリガラス様と言われるような肺炎像となりますが、その見た目だけでマイコプラズマとは確定できません。

マイコプラズマかどうかを判定するにはいくつかの検査があります。

血液検査
1回採血するだけでは診断がつかないこともあり、ペア血清といって2-3週間あけて2回採血することもあります。時間もかかるし、子どもでは痛みという点でもハードルが高い検査です。
抗原検査
ノドから採取するだけで15分で結果が出ます。でも精度がかなり悪くて「陰性=罹っていない」という検査結果が出ても間違っていることも少なくありません。
核酸検査(LAMP法)
こちらもノドから採取します。結果は精確ですが発症してから時間が経ちすぎると反応しづらくなることと、結果が出るまでに数日かかることが難点となります。
PCR検査
精度は高いのですが検査機が特殊で高額ということもあり採用施設は多くはありませんが、少しずつ採用施設も増えてきており当院でもできれば年内に採用したいと考えています。

全例で血液検査をしたり大きな病院に紹介することは現実的ではありません。クリニックとしてやれることはしっかりと対応したいと考えます。

現段階では必要に応じて抗原迅速検査やLAMP検査を実施していますが、症状や病歴をしっかりと確認してマイコプラズマ肺炎を強く疑うときには症状診断として検査をせずに治療介入することもありますが「何も考えず念の為、抗生剤を投与する」ことは避けなければいけません。

症状や所見は大事ですが、周囲流行も大切な情報となります。とくに感染してから発症するまでの期間すなわち潜伏期間はやや特徴的です。

潜伏期間:2~3週間

他の一般的な感染症に比べて潜伏期間が長いことは問診で大事なヒントになることがあります。家族やお友達で時間差(約2〜3週間)でひどい咳の患者さんが発生した時はマイコプラズマを疑う必要があるかもしれません。

治療

まず重要なこととして、軽い場合には無治療で自然に治ります。

対症療法といって症状に合わせた薬を使うこともありますが残念ながら咳止めなどがあまり効かない(これはマイコプラズマに限ったことではありませんが・・・)ことは少なくありません。咳が続いていても食事が取れて全身状態が良ければ慌てる必要はありません。

マイコプラズマに罹ってもほとんどの場合は自然に治る

熱が続いたり、全身状態が悪かったり、咳が強く生活支障が大きい時は、治療として抗生物質を使用します。多くの抗生物質は細菌が持つ『細胞壁』を壊すことで殺菌作用を発揮します。ところが、最初に書いたようにマイコプラズマはちょっと変わった細菌で『細胞壁』がないため一般的な抗生物質(たとえばペニシリンやセフェム系といわれる薬)は効きません。

マイコプラズマにはペニシリンなどの抗菌薬は無効

耐性菌

マイコプラズマにはマクロライド系というタイプの抗生物質が効くのですが、近年ではこれらの薬に耐性力を持ったマイコプラズマも増えてしまいました。→2-3日経っても効果が現れないときには違うタイプの抗生物質を使うこともあります。

薬が効いてくれると、数日以内に症状が改善することが多いですが、咳が完全に治まるのにはしばらく時間がかかることがあります。

日常生活での感染防御

マイコプラズマの感染はどのように広がっていくでしょうか?

①飛沫感染
感染者が咳やくしゃみをした際に発生するしぶき(飛沫)を近くにいる人が吸い込むことで感染してしまいます。
②接触感染
感染者の飛沫が付着した物品(例えば、食器、タオル、ドアノブなど)に触れ、その手で口や鼻に触れることで感染することもあります。
東京都感染症情報センター

濃厚接触するほどに感染リスクが高くなりますが、マイコプラズマは強い咳が続くことが特徴の一つなので家庭内・学校などで咳をすることで周りに広めてしまい集団発生を認める可能性があります。

自分がマイコプラズマにかかっているかどうかは(特に軽症だと)分かりづらいものです。マイコプラズマに限らず、咳エチケットや普段からの心がけは大切です。

でも書きましたがマイコプラズマにおいても感染防御の基本は変わりません。

  • 手洗いの徹底:手洗いはこまめに行いましょう。手洗いをすることでマイコプラズマだけではなく多くの感染症が予防できます。
  • マスクの着用:飛沫感染を防ぐためにマスクを着用するのが効果的です。自分がかかっている時に周りに撒き散らさないという意味では最も重要といえます。
  • おもちゃや共用物の消毒:子どもたちが触るおもちゃや共有物は、定期的に消毒しましょう。特に保育園や幼稚園などでの共用は要注意です。
  • 体調管理:体調不良のときには無理せず休息が望ましいです。バランスの取れた食事と質の良い睡眠はとても重要です。

マスクの一番の目的は「自分が無自覚のうちに周りに感染を拡げることを防ぐ」ことだと思います。外や広い空間ならば大丈夫ですが、室内などの密閉空間では咳エチケットとしてマスクを着用しましょう。

当院では私を含めスタッフはコロナ禍以降もマスクを着用していますが、万が一にも自分たちが気づかないうちに感染源にならないように心がけてのことですのでご了承ください。

まとめ

マイコプラズマ肺炎は年により流行状況が大きく変わる感染症で、残念ながら2024年は当たり年(ハズレ年?)のようです。

その初期症状は風邪に似ているため、初診時に精確に診断することは困難です。

マイコプラズマをはじめとした感染症予防のために、今からできることとして手洗いや咳エチケットとしてのマスク着用、そして日々の体調管理を心がけましょう。

寒川・茅ヶ崎・藤沢・平塚で子どもの風邪、長引く咳、アレルギーのこと、そのほか健康のことでお困りの方はお気軽にご相談ください。

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